わくら屋

和倉稜の掌編・短編小説

2021-01-01から1年間の記事一覧

ぶんげいふぁいとくらぶ(BFC3幻の2回戦作)

喜びよりも後悔を強く感じさせる結果だった。 佐倉さんの評は多様な切り口でわたしの未熟さを指摘し、それでいて少しのお褒めの言葉とともに高い点が添えられていた。 佐倉さんとはSNSで交流を初めてまだそれほど経っていない。以前、彼の言葉に惚れ込ん…

ハロー・ミステリー(BFC3応募作品)

落ちていた遼のボクサーパンツ、ライトグリーンのクッション、タオルケット、目についた柔らかいものを片っ端から投げつける。受け止めた遼は両手を一杯にする。 「まあまあ七瀬さん、ちょっと落ち着きな」 落ち着いてられるか。私が初めて主催するミステリ…

プロピオニバクテリウム・アクネス(イグBFC2 参加作品)

アクネ菌が話しかけてきた。 卒論に向けた追い込み実験を終え、帰宅した寒い深夜のことだ。ボロアパートの壁は薄く、隣人は何ら特徴のない男だった。その男の部屋から艶かしい女の声が響いてきた。自分と身なりの変わらない隣人に恋人がいるなんて勘弁して欲…

脱落した女(クリエイターズマッチングプロジェクト 応募作品)

下記リンクからお読みくださいませ。 和倉稜と書かれた右のストーリーボタンをクリックすると表示されます。 sdr-cmp.com 絵と歌と物語を繋いでいくって面白い取り組みですね。 ストーリーを一度クリックすると対応する楽曲や歌詞、歌のみが表示されるように…

パパ見ぬ世界(第2回かぐやSFコンテスト 応募作品)

パパ、大好きだよ。 「世界に選ばれたかった」 パパの口癖だった。喜々と語るパパのクロスモーダル研究の話は独創的で、魅力的だった。選ばれた優秀な存在に違いない。何度も伝えたが、その度に首を横に振られた。手のひらが頭の上にそっと置かれる。ながい…

神鳴島とナツとフユ(島アンソロジー参加作品)

死んだ夜の記憶はおぼろげだった。雷を受けて虹色を帯びる貝の映像が浮かぶ。手を伸ばす。ぷつりと記憶は途切れる。 ナツは幽霊になっていた。虹色の貝に願うことは叶わなかったらしい。ナツを幽霊にしたのはフユの願いではないだろうか? 「おはよう、ナツ…

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